仕事をしていると、人間関係や仕事が上手くいかないなどのストレスにより、「仕事が辛い」と感じてしまう人も少なくありません。
そうしたストレスを抱え続けていると、うつ病になってしまう場合もあります。
うつ病のきっかけとして最も多いと言われるのが「環境要因」です。
仕事が原因でうつ病になってしまった場合には、働く環境を変えるために退職するという選択も必要です。
しかし、退職してすぐに新しい仕事が見つかるとは限らず、症状が改善されずに仕事が手につかない場合や、新しい環境になじめるかどうかも分かりません。
一番の心配は、自分や家族の生活費がどうなるか、ではないでしょうか。
そこで今回はうつ病の治療のために仕事を辞めたいけれど、本当に退職して良いのか悩んでいる方へ向けて、退職後に受給することができる手当てや、再就職の際に心強い支援サービスについてご紹介します。
また、退職までの流れはもちろん、「家族に伝えておくべきか」「再就職を目指す場合」など、退職前後に知っておきたいポイントについても分かりやすく解説します。
うつ病のある方が退職する際の注意点とは?
うつ病の方が退職や休職する際の注意点をまとめました。
- 医師による診断を受ける
- 失業保険について調べる
- 退職後に必要な手続きを把握しておく
- 傷病手当金について調べる
- 家族へ伝えておく
医師による診断を受ける
うつ病の診断は、メンタルクリニックと呼ばれる精神科や心療内科がある病院で受けることができます。
診断ができるのは、そうした医療機関のみですので、適切な治療方法を知るためにも、早めに受診することがオススメです。
診察を受けて「うつ病」と診断された場合は、診断書の作成を依頼しましょう。
勤務している会社によっては、退職する際に医療機関の診断書の提出を求められる場合もあります。
また、うつ病の診断書があると、ハローワークで手続きをする際に「特定理由離職者」として優遇されたり、就労支援機関などからの支援を受ける際にも必要になってきます。
診断書が必要かどうか、事前に確認しておこう
もしかしてうつかも?ネットで簡易診断
最近では、簡単にうつ病の自己チェックができるネット上のシステムもあります。
もし医療機関への相談がためらわれる場合は、そうした簡易チェックをしてみるのも方法です。
一人で抱え込まず、まずは専門の機関に相談してみると、的確な改善策に繋がるはずです。
都道府県別の医療機関を検索できる厚生労働省のサイトもありますので、是非ご活用ください。
働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
失業保険について調べる
失業保険についてはハローワークの公式サイトなどで情報を確認することができます。
退職の理由が病気や怪我である場合、「特定理由離職者」として認められる可能性があり、給付期間の制限がなしで失業保険を受けられるケースもあります。
症状や環境によっても対応すべき内容は様々で、似たような事例を参考にできる場合もあるため、事前にハローワークへ相談するのがオススメです。
お住まいの地域のハローワークについては、厚生労働省の案内サイトをご参照ください。
退職後に必要な手続きを把握しておく
退職すると、それまで勤務先で支払いをしてもらっていた健康保険や年金などの切り替えも必要になります。
基本的に手続きが必要なものは、住民税、失業給付、年金、健康保険。
加えて、退職してから12月31日時点で転職をしていない人や、転職してから年内に給与を受け取っていない場合には、ご自身で確定申告の手続きも必要です。
そうした各種手続きの際に、勤務先からの離職票などの書類が必要な場合もあるため、事前に手続きの流れや必要な書類等について調べておくと良いでしょう。
勤務先やお住いの市区町村によっても手続きが異なるため、各市区町村へお問い合わせください。
傷病手当金について調べる
うつ病などが原因で休職や退職をする場合、休職中は傷病手当金、退職後は失業手当を受給することができます。
傷病手当金とは、被保険者が仕事を休んでいる間に、雇用している事業主から休職手当など支給が十分に受けられない場合に、被保険者とその家族の生活を保証する制度です。
休業1日につき、直近12か月間の標準報酬月額の平均額÷30×2/3の金額が支給されます。
勤務先から給与などの支給がある場合は、傷病手当金よりもその支給額が少なければ、その差額が手当金として支給されます。
家族へ伝えておく
うつ病は一人では解決できません。
治療するためには、家族や身近な人からの理解を得ることが何より大切です。
自分自身の状況をしっかり把握するためにも、後回しにせずに事前に話をしておくことで、治療に専念するための環境を整えることにも繋がります。
また、周囲の人にどのようなサポートをしてもらいたいか、相談して理解をしてもらいましょう。
退職時の注意点
退職するときの注意点は以下の通りです。
- 安易に答えを出さない
- ルールに沿って退職手続きをする
- 意思表示は記録に残す
1.安易に答えを出さない
うつ病やうつ状態のとき、人間は思考力が著しく低下している状態です。
また、健全な状態のときよりも物事を否定的に考えてしまいがちです。
「現状が辛い」という思いに耐えかねて、退職という結論を焦ってしまう人も少なくありません。
しかし、そうした状態の時ほど、大事な結論は「後回し」にしてください。
まずは治療に専念して、医師や家族、周囲の人たちと相談しながら慎重に考えていくことが重要です。
相談が可能な場合は、勤務先の上司や仲の良い同僚、人事サポートの担当者やカウンセリング担当がいれば、そうした人にも協力してもらいながら結論を出していきましょう。
一人ではないことを忘れないで
ルールに沿って退職手続きをする
退職後に後悔しないためにも、法律上のルールもしっかりと理解した上で手続きを進めていきましょう。
民法によると、退職は以下のように定義されています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する
※引用:民法第627条より
つまり、法律上は、いつまで雇用という期限が契約で決められていない場合は、退職を申し出てから2週間で雇用の契約を終了することができます。
ただし、退職の手続きについては会社によって就業規則で定められたルールがある場合もあります。
「原則として1か月前に退職の旨を申し出る」など、雇用時の契約書に記載されている内容や就業規則を確認した上で、必要な手続きを進めていきましょう。
事前に人事担当や上司に相談できる状況であれば、過去の事例も参考にしながら手続きを進められる場合もあります。
意思表示は記録に残す
退職の意思を勤務先へ伝える場合、口頭での相談だけでなくメールや郵送などの記録に残る形で伝えるのが望ましいでしょう。
休職中など、口頭で伝えることが難しい場合にも有効です。
郵送で通知する場合は、後々記録を確認することができるように、内容証明郵便を活用することをオススメします。
記載した内容や、いつ発送されたのか、相手が受け取った日などを郵便局が証明してくれるため、退職の意思表示をしたという証拠として残すことができます。
うつ病のある方が退職するまでの流れ
実際に退職するまでの流れを簡単にご紹介します。
全体的な流れを知っているかどうかだけでも、手続する際の気持ちの余裕が変わってきます。
- 診断書を受け取る
- 退職の意思を伝える
- 退職する
- 各種保険の切り替え手続き
- 雇用保険などの手当てを申請する
1.診断書を受け取る
まずは、最初のほうでお伝えしたメンタルクリニックなどの医療機関へ相談して、診断書を書いてもらいましょう。
診断の当日に受け取れる場合もありますが、医療機関によっては数日かかる場合もあります。
発行の費用は2,000円~3,000円が基本的な相場ですが、内容が複雑な場合は6,000円前後になることもあります。
依頼する医療機関によっても受取日や費用が異なるため、診断前に問い合わせるのが良いでしょう。
2.退職の意思を伝える
勤務先へ、退職する意思を伝えます。
伝え方は先ほどお伝えした通り、口頭の他にメールや内容証明郵便で通知することも有効です。
また、会社によっては診断書を求められる場合もあるため、医療機関の診断書を受け取ってから伝えるのが良いかもしれません。
退職届を提出し、必要に応じて有給休暇の消化や業務の引継ぎ等について確認します。
有給は絶対消化しような
3.退職する
退職に関する書類については、手続きの完了後に、自宅宛てに郵送される場合もあるため、後から送られてくる書類等がないかどうか、退社時に確認しておきましょう。
また、提出する書類に漏れがないかや、会社に返却する備品等が自宅に残っていないかなど、退職後に問題とならないようにしっかり確認しておきましょう。
4.各種保険の切り替え手続き
それまで加入していた年金や健康保険の切り替え手続きを行います。
どちらも、お住いの市区町村の役場で手続きが可能です。
手続きの際は、免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類のほか、退職日や社会保険の資格喪失日を確認できる書類の提出も必要となります。
退職日の翌日が資格喪失日になるぞ
社会保険の資格喪失手続きは、喪失日から5日以内に会社が行うことになっており、会社によっては証明書を発行するか希望を聞いてくれる場合もありますが、事前に発行を依頼しておくのが良いでしょう。
5.雇用保険などの手当てを申請する
ハローワークで失業保険の手続きを行います。
離職票のほか、マイナンバーカードや運転免許証などの身元確認書類の持参が必要となるため、あらかじめハローワークの公式サイトで確認しておきましょう。
以下のリンクより必要書類の確認ができます。
退職したその後は?
症状や環境によっても、退職後の過ごし方は変わってきます。
治療のため、担当医師のアドバイスをしっかり聞いて生活しましょう。
うつ病になると、回復しても50%の確率で再発する可能性があると言われています。
調子が良くなってきても、勝手に通院を止めたり、処方された薬を飲まないと、再発のリスクも高まるため、自己判断で治療を止めるのは要注意です。
特に、それまで仕事を一生懸命にこなしてきた人ほど、「働かなければ」という責任感が強く、急に仕事をしなくなると、生きる気力や体力も低下しやすくなります。
復帰することを想定した生活習慣を意識して、食事、運動、睡眠等の習慣を考えていくことがポイントです。
また、自分にとって何がストレスに感じやすいのか、ストレス状態でどのような変化が起こるのか、なども把握しておくようにしましょう。
他の人が働いているのに、自分は働いていない、という罪悪感を感じてしまうかもしれませんが、まずは「治療が一番の仕事」と割り切って専念してみてください。
休むことは悪いことじゃないぜ
うつ病による退職で手当ては出る?
うつ病を理由に退職した場合、先にお伝えしたように「失業保険」と「傷病手当金」の二つの手当を受け取れる可能性があります。
どのような場合に受け取れるのか、順番にご紹介します。
失業保険
まず、失業保険とは、再就職までの生活を心配せずに新しい仕事を探せるように支援するための制度です。
給付の期間は、離職日の年齢、雇用保険に加入していた期間や離職理由などを考慮して決定され、原則として90日~360日の間で決められます。
ハローワークの公式サイトに各手当についての紹介が記載されています。
受給できる1日当たりの金額「基本手当日額」は、ハローワークによると次のように決定されます。
「基本手当日額」は原則として離職した日の直前の6か月に毎月きまって支払われた賃金(つまり、賞与等は除きます。)の合計を180で割って算出した金額(これを「賃金日額」といいます。)のおよそ50~80%(60歳~64歳については45~80%)となっており、賃金の低い方ほど高い率となっています。
※引用:ハローワーク公式サイトより
また、基本手当日額は年齢区分ごとに上限額が決められており、令和4年現在では次のようになっています。
30歳未満 | 6,835円 |
30歳以上45歳未満 | 7,595円 |
45歳以上60歳未満 | 8,355円 |
60歳以上65歳未満 | 7,177円 |
◆計算例:離職前の月給240,000円だった場合
240,000円×6か月÷180=8,000円
受給要件について
また、次の2つの受給要件をどちらも満たす場合に、上記の金額を受け取ることができます。
(1)ハローワークに来所し、求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること。
したがって、次のような状態にあるときは、基本手当を受けることができません。
- 病気やけがのため、すぐには就職できないとき
- 妊娠・出産・育児のため、すぐには就職できないとき
- 定年などで退職して、しばらく休養しようと思っているとき
- 結婚などにより家事に専念し、すぐに就職することができないとき
(2)離職の日以前2年間に、被保険者期間(※補足2)が通算して12か月以上あること。ただし、特定受給資格者又は特定理由離職者については、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上ある場合でも可。
※補足2 被保険者期間とは、雇用保険の被保険者であった期間のうち、離職日から1か月ごとに区切っていた期間に賃金支払いの基礎となった日数が11日以上又は賃金の支払の基礎となった時間数が80時間以上ある月を1か月と計算します。
※引用:ハローワーク公式サイトより
傷病手当金
次に、傷病手当金とは、病気や怪我により仕事を休み、勤務先から給料などがもらえない場合に、被保険者とその家族の生活を保障するために支給される制度です。
先ほどもお伝えしたように、休業1日につき、直近12か月間の標準報酬月額の平均額÷30×2/3の金額が支給されます。
基本的には雇用している事業主から休職手当など支給が十分に受けられない場合に支給される手当ですが、勤務先から給与などの支給がある場合は、傷病手当金よりもその支給額が少なければ、その差額が手当金として支給されます。
受給要件は、次の4つの条件をすべて満たしている場合です。
- 病気や怪我のための療養中(自宅療養でも可)
- 病気や怪我のため仕事に就けない
- 続けて3日以上仕事を休んでいる
※最初の3日間を待機期間として4日目から支給 - 休んでいる期間の給料などがもらえない
※給与などの額が傷病手当金より少ない場合は差額を支給
このうち一つでも当てはまらない場合は支給対象とはなりません。
また、傷病手当金は、休職中(雇用契約中)に支給されるものですが、次の条件を満たす場合は、退職後も手続きをすることで継続することができます。
- 退職日までに1年以上被保険者であった
- 退職時に傷病手当金の支給対象であった
また、病気などが回復して仕事に就ける状態になった場合は支給されません。
例)退職日までに業務の引継ぎのために出勤した場合、など。
協会けんぽの公式サイトに、支給条件や申請方法について紹介されているのでご参照ください。
うつ病による退職後に再就職を目指す場合は?
うつ病の回復後に「そろそろ仕事を再開したい」と思っても、一定の期間に仕事から離れていると、どうしても不安や恐れを感じてしまうのは当たり前のことです。
ハローワークの他にも、就労移行支援事業所や地域障害者職業センターなど、再就職を支援してくれる機関が多くあります。
そうした機関を頼るのもおすすめだぞ
特に就労移行支援事業所では、次のようなサポートが受けられます。
- 生活習慣改善に向けたサポート
- メンタル面のケア
- 再就職に関するスキル講習
- 就職活動の支援
- 転職先への定着支援
事業所によって受けられるサポート内容が異なるため、状況に合わせた支援が受けられる事業所を探すのが良いでしょう。
全国の就労移行支援事業所を検索できるサイトもあるため、是非ご活用ください。
そのほか、食生活などの生活習慣を整えることも、社会復帰のために重要です。離職後の生活リズムが乱れている場合には、少しずつ改善していきましょう。
また、同じような状況の人と交流したり、信頼できる人に相談する機会を増やすことで、対人関係に慣れることも復帰への一歩です。
声を出して人と話すことで、自然と元気が出てきます。
支援機関などに通うことも、生活習慣を整えることに繋がりますので、少しずつ人と交流する時間を増やしていくのが良いでしょう。
うつ病による退職のまとめ
- 毎日仕事へ行くのが憂鬱
- 上司や部下になかなか理解されなくて辛い
- 今の仕事は自分には合わないのだろうか
- 自分はこの職場で必要とされているのだろうか
- 辛いことがあっても相談できる相手がいない
仕事や人間関係について、誰もが不安を抱えることがあります。
特に、一度辛い思いをした経験は、時が経ってもなかなか消えていかないかもしれません。
しかし、「ちゃんと仕事ができるのか」「自分で大丈夫なのか」と不安や怖さを抱くことは、逆に言えば、しっかり前に進みたいと思っている証拠です。
社会で役に立ちたい。支えてくれた人たちへの恩返しがしたい。
以前のように元気で仕事がしたい。
そんな想いを信じて、目標への一歩を踏み出すことで、自然と理想へ近づいていけるはずです。
無理をせず、信頼できる周囲の人を頼りながら、自分に合ったペースで回復や再就職を目指していきましょう。
よくある質問
うつ病で診断書をもらう際によくある質問や気になる項目についてまとめました。「こんな事も気になる!」という質問がある方はぜひこちらから探してみてください。
うつ病で退職するデメリットは?
うつ病で退職するデメリットは、仕事を再開したい時に新しい職場を探す必要があることです。他にも複数のデメリットがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
うつ病で退職、休職するのはずるい?
うつ病で退職、休職するのはずるいと考えるよりメリットを考えるべきです。
治療が早く始められる、自分と向き合う時間がとれる。詳しくはこちらをご覧ください。
うつ病で退職してほしいと言われたら?
うつ病で退職してほしいと言われたら、病気の時は思考力が低下しているため、安易に答えを出すことはおすすめできません。詳しくはこちらをご覧ください。
うつ病の退職理由の例文は?
うつ病の退職理由の例文には、以下のものがあります。
「このたび、病気の治療のため、〇月〇日で退職をしたくお願い申し上げます。」詳しくはこちらをご覧ください。